読み物コーナー

2019年11月14日掲載

日本にたどり着いたジョン・グールドの鳥類標本

フェロー 黒田清子

玉川大学教育博物館で「ジョン・グールドの鳥類図譜~19世紀 描かれた世界の鳥とその時代」展が開催されているのにあわせ、グールドの鳥類図譜について調査・研究している、黒田清子・山階鳥研フェローに、山階鳥研所蔵標本から見つかったグールドが収集した鳥類標本について執筆していただきました。

山階鳥研ニュース」2019年11月号より

19世紀に活躍した英国の鳥類学者ジョン・グールドは、その生涯を通して多くの美しい鳥類図譜を制作しました。山階鳥研が所蔵している8作品23巻と玉川大学教育博物館所蔵の10作品40巻を合わせると、現存するグールドの大判図譜のほぼすべてを網羅することになります。

1ページが56センチメートル×39センチメートルという大判図版は、当時発明されたばかりの石版画の技法を用いて刷られた白黒の版画に、彩色師が一枚一枚手で色付けを施して仕上げられたものです。扱った鳥はアフリカ大陸を除く全大陸に及び、日本で見られる鳥も数多く含まれています。図版の中の鳥類は、そのほとんどが世界各地より収集された標本(大部分が鳥の皮だけだったと思われる)を基に描かれました。熱帯のジャングルや色とりどりの花々を背景に、生き生きと飛び回り、餌を捕え、子育てをしている鳥たちの図版が、ペナペナの皮から生み出されたかと思うと、不思議と感動を覚えます。

昨年の夏、山階鳥研で所蔵標本史を調査している所員から、「所蔵標本の中に、グールドが送った鳥が入っている」という思いがけない知らせを受け驚きました。時と空間を遠く隔てた19世紀の英国鳥類学者が、一息に身近な存在に感じられた瞬間でした。

山階鳥研には約7万点の標本が収蔵されていますが、その中には1923(大正12)年の関東大震災後に東京帝室博物館(現・東京国立博物館)から学習院 を経由して山階鳥研に移管された約3,300点の標本群があります。グールドが収集した中南米産のハチドリやゴジュウカラの仲間を含む6点の仮剝製(かりはくせい)は、その標本群から見つかりました。標本には米国スミソニアン博物館のラベルが付いており、調査によってグールドが中南米の採集人に依頼して収集した鳥を、スミソニアン博物館に寄贈したものであろうことがわかりました。1876(明治9)年に日本はフィラデルフィア万国博覧会 に参加しましたが、それを契機にスミソニアン博物館と日本政府との間で自然史標本の交換が行われ、グールド標本はこの時に日本に渡ってきたのです。

はるか海を越えて日本に届けられたグールドの寄贈標本は、グールドの世界各地にわたる交流関係の広さを教えてくれるだけでなく、アメリカと日本の博物館の歴史や両国博物館の交流史をも垣間見せてくれます。

玉川学園創立90周年を記念して開催される「ジョン・グールドの鳥類図譜―19世紀 描かれた世界の鳥とその時代」展では、山階鳥研の協力を得て池袋会場で全巻展示が行われるほか、上記のグールド標本や図譜の制作過程を示す資料、同時代に製作された他の鳥類図譜なども展示されます。グールドの鳥類図譜の魅力が少しでも伝わり、19世紀の図譜制作や人と鳥の関わりに興味を持っていただけますよう願っております。

『アジア鳥類図譜』より。 オシドリ(山階鳥研所蔵)。グールドは日本で珍重されているこの鳥を、英国に帰化させたいと願っていた。

『ハチドリ科鳥類図譜』より。オジロケンバネハチドリ(山階鳥研所蔵)。グールドはハチドリの羽の金属光沢を表現するため、金彩を施した上に透明なオイルとニスの混合液を塗る技法を編み出した。

山階鳥研所蔵のグールド標本より。シロハラエメラルドハチドリ。標本に付されていたスミソニアン博物館の標本ラベル
「J.Gould」という文字が見える。

(文 くろだ・さやこ)

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